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根管治療

はじめに

根管治療とは?

 ”根管治療”や”歯内療法”という言葉は”虫歯治療”や”歯周病治療”と比べるとあまり馴染みのない言葉かも知れません。

 しかし、”根管治療(歯内療法)”は歯の保存を左右する重要な治療です。

 歯の中には神経や血管(イラストの”Pulp”)が存在し、その神経や血管が入っているスペースを”根管”と呼びます。

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重度の虫歯などによって、根管に細菌が感染すると著しい痛みや根の先に膿が溜まることがあります。

根管治療とはその感染してしまった根管をファイル(根管を削るヤスリのようなもの)や薬剤を用いて綺麗な状態にすることで、症状を改善する治療法の事を指します。

↑このアニメーションで根管治療の流れが解説されています。

根管治療の困難さ

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上の写真は根管を特殊な方法で染めたものです。

 根管の非常に複雑な形態をしていて、毛細血管の様に様々な枝を作っています。

 そしてその形態が同じ歯は一つとして存在しません。

 先程の動画では簡単な治療にも見えますが、実際にこの根管の内部を綺麗にして感染源を除去する事の難しさをご理解いただけますでしょうか?

30年前までの根管治療

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今から約30年前までの根管治療は、

X線(レントゲン)で根管や病巣を想像して、

暗い根管内を肉眼(もしくは拡大鏡)で見て、

硬いステンレススチールのファイルで内部を清掃していました。

この時代の治療法は、後述する現代の根管治療に比べると”手探りの治療”であったと言えると思います。

しかし現在でも、日本の保険診療の根管治療のほとんどはこの様な方法が主流のようです。

現代の根管治療

そんな根管治療の世界で1990年代に大きな転換期が訪れます。

歯科用CT」、「手術用顕微鏡」、「ニッケルチタンファイル」がこの時代に登場したのです。

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歯科用CT

現在も画像診断の主流はX線撮影(レントゲン)です。

比較的器材も安価で被曝量も少ないため、医科領域でもよく用いられています。

しかしレントゲンは、本来立体の物を平面に投影した”影絵”なので、組織の重なりが生じ正確な像を示すことが困難な場合があります。

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一方、CTは機材が高価で、被曝量がレントゲンより多いという欠点はありますが、周囲の組織に影響されること無く、自由な位置で正確な断層像を得られるという非常に大きなメリットがあります。

例えば、

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上のレントゲン写真の丸印では、はっきりしない病巣が、CTを撮影すると

この様に明確に病巣が観察出来ます

*治療後4ヶ月後には病巣がかなり小さくなっております。

この様にレントゲンでははっきり状態が分からないケースであっても、CTを撮影することでより診断の確実性が増す場合があります。

ただし全ての症例で撮影する訳ではなく、被曝量が増えるというデメリットとのバランスと考えながら撮影する必要があると考えています。

手術用顕微鏡

医科における手術用顕微鏡の歴史を紐解くと、1967年に初めて脳神経外科の手術に手術用顕微鏡が用いられ、”狭く暗い術野”を”明るく拡大し、緻密な作業を行うことで脳神経外科の手術の成功率は著しく向上しました

歯科においては、1990年代に歯科治療における有効性が認知されるようになり、1998年からアメリカの根管治療の専門医は手術用顕微鏡の使用を義務付けられています

当院では治療のほとんどを手術用顕微鏡を用いて行なっていますが、”狭く暗い術野”である根管治療は手術用顕微鏡の有効性が発揮しやすい分野であると考えております。

では、実際にどのくらいの違いがあるのでしょうか?
肉眼で根管内を観察したイメージです

↑肉眼で根管内を観察したイメージです

拡大鏡で根管内を観察したイメージです

↑拡大鏡で根管内を観察したイメージです

拡大して見ることは可能ですが、奥は暗くて見えません。       

では顕微鏡で根管内を観察すると・・・

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かなり奥まで観察出来るのがお分かりになると思います。

まだ奥の方に古いお薬(ピンク色)が残っています。

*諸事情により、ラバーダムが出来ていない点はご容赦下さい。

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↑ 顕微鏡下で内部の清掃を行いました

この様に、かつては”見えない根管”を”手探り”で行われていた根管治療を、手術用顕微鏡を用いることによって視野を拡大するだけではなく、強力な光源で根管というトンネルの奥深くまで照らすことによって「確実に見ながら」行うことが可能になったと言えます。

手術用顕微鏡については「顕微鏡歯科治療」のページもご参考下さい。

Ni-Ti(ニッケルチタン)ファイル

前述の「根管治療の困難さ」 の標本で示すように根管の走行は非常に複雑で、一つとして真っ直ぐな根管は存在しません。

硬いステンレススチール製のファイルしか存在しなかった時代は、この複雑な根管の内部を清掃するのは大変難しく、手指でファイル操作を行うため術者の疲労度も大変なものでした。

一方、ニッケルチタン製のファイルは高い弾力性によって、湾曲した根管の治療に適し、根管の追従性にも優れるため電動式での操作も可能になりました。

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↑高い弾力性を有するニッケルチタンファイル

以下の様な湾曲した根管もニッケルチタンファイルによって、元の形態を大きく崩す事無く治療が可能となりました。

↑ 治療前:根の先端が曲がっています

↑ 治療前:根の先端が曲がっています

↑ 治療後:根管の曲がっている部分も薬が詰まっている様に見えます

↑ 治療後:根管の曲がっている部分も薬が詰まっている様に見えます

この様なニッケルチタンファイルを用いた根管治療はアメリカでは広く普及し、普及率は80~90%と言われておりますが、日本における普及率は20~30%程度のようです。

これはステンレススチールファイルと比べて、ニッケルチタンファイルが非常に高価であり、かつ消耗品であるため保険診療で用いるには採算面で割に合わないからかも知れません。

道具が良ければ良い治療が出来るのか?

では上記の道具があれば良い治療が出来るのでしょうか? 

答えはおそらく「No」です。

CTには「読影する能力」、手術用顕微鏡には「日常的に使いこなす能力」、Ni-Tiファイルには「材料の適正に合った使用方法」が必要になります。

そしてその技術や診断力は導入したからと言って、一朝一夕に身につく代物ではありません。

例えるなら免許を取り立てのドライバーがスポーツカーに乗っても早く走れない事と同じです。 

実際に私(秋本)も、まだまだ研鑽中の身であり、日進月歩の医療の世界において「これで終わり」は無いと考えています。

根尖病変の原因は?

ところで根管治療が必要になる原因は何でしょうか?

現在より60年以上前に「根尖病変(歯の根の病変)」は細菌感染が原因であると証明されています。

(Kakehashi S (1965)『The effects of surgical exposures of dental pulps ingerm-free and conventional laboratory rats.』より) 

そのため、治療に際しては無菌的な環境を確保する必要があります。

具体的には以下の内容になります。

  • ラバーダム防湿(ゴムのシートを用いて治療する歯を唾液から隔離する操作)を行う
  • 根管治療を行う前に顕微鏡を用いて徹底的に虫歯を除去する
  • 可能な限り使い捨ての器具を用いる。使い捨てが難しい器具は滅菌済みの物を用いる

ある意味当たり前の事なのですが、日本の保険治療の環境下ではこの内容を遵守するのは難しいようです。

虫歯を徹底的に除去することは時間がかかりますし、使い捨ての器具の使用や滅菌を徹底するのはコストがかかるので、治療費が低く抑えられ時間とコストが非常に制限される保険治療では物理的に無理があります。

ラバーダム防湿の必要性 

ラバーダム防湿とは、「唾液などからの隔離」や「強い薬剤のお口の中への漏洩防止」の観点から、特に歯内療法では強く推奨されていて、アメリカ歯内療法学会では使用が必須とされています。

↑紫色のシートがラバーダムシートです

↑紫色のシートがラバーダムシートです

ラバーダム防湿自体は150年前も前から存在し、有効性が認められているにも関わらず日本での使用率は5%以下と言われています。

これは装着の手間暇や、歯科医師自体が手技に慣れていないことが一因と思われます。

さらに悪い事に、以前は保険で点数がついていましたが(10点=100円ですが・・・)、ラバーダムの消費量と比べてあまりにも請求数が多かった(不正請求が多かった?)ためか、ラバーダムは保険から外されてしまいました

つまり保険治療でラバーダム防湿を行うとしたら、歯科医院の持ち出しで行わなければならないのが現状です。

日進月歩で進歩している医療の世界において、この流れは逆行しているように思ってしまいます。

各国における根管治療の費用

日本(保険治療)と海外の根管治療の治療費の目安を以下に示します。

根管治療費の国際比較
国名 治療費 マクドナルド 何個分
日本 9,500円 490円 20個分
フィリピン 72,000円 100円 720個分
マレーシア 60,000円 120円 500個分
シンガポール 72,000円 150円 480個分
アメリカ 180,000円 300円 600個分

 

アメリカと比べて20分の1程度、という事実にも驚きますが、東南アジアのフィリピンやマレーシアと較べても格段に安く、マクドナルドのハンバーガーを物価の基準にすると数百倍(!!)の差があります。

保険治療制度がない諸外国では、物の価格を決めるようにコストや技術料から治療費を決めていますので、「諸外国で行われている根管治療」を日本の保険治療で行う事がいかに困難であるかという事がご理解いただけると思います。

日本の根管治療の成功率は?

この様な医療環境の差がどの様な結果をもたらすのでしょうか? 

先進国における根管治療(初めて神経を取った歯の治療)の成功率は90~95%と言われています。

一方、日本の根管治療の成功率は良くて50%、悪くて30%と報告されています。

(Hideaki.Suda(2011)『我が国における歯内療法の現状と課題』より)

医療の世界においてこの成功率の格差は無視できない数字であると思われます。

「保険診療」 OR  「自由診療」 ?

そもそも保険治療制度の無い国は、医療というものは費用がかかるが、基本的にベストの治療法以外存在しません。

日本の公的な医療保険は「病気のために働けなくて貧困になる」ことへの対策、貧困が病気を生み、病気が貧困を生むという悪循環を断つために生まれた社会の仕組みです。

そのためコスト的にも時間的にも保険治療制度はベストの治療を行う為の制度ではありません。

例えば、根管治療において有効であると言われている材料であるMTAは”1グラム=1万円”もするので採算が合いませんし、そもそも保険治療の根管治療での使用は給付対象外です。

とは言え、国民全体の健康にとっては日本の皆保険制度は素晴らしい制度であると思います。

実際に、入れ歯治療を保険で出来る国は日本とドイツくらいで、「悪い歯は抜いてしまえば終わり」という国がほとんどです。

医療費が払えないために、保存できる歯を抜歯しなければならなくなったり、虫歯を放置し感染症で死亡するというケースが日本で少ないのは保険制度があるためです。

そのため必要最低限の生活水準のためには保険治療は必要ではあるのですが、結局は「長持ちする治療」や「審美的な治療」という部分は保険外になるというのが現状です。

「保険治療と自由診療の違い」はこちら

まとめ

以上の事から、当院では根管治療の成功率の向上の為に以下の様に治療を行っております。

  • 根管治療の基本である「無菌的な環境での治療」を可能な限り行うこと
  • 「CT」、「手術用顕微鏡」、「ニッケルチタンファイル」を用いて治療の成功率の向上を目指すこと
  • 常に研鑽を積んで術者自身の技術や知識の向上を怠らないこと

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